高田馬場のとっておき酒場は、あのサイトにも載っていない「もつ煮込み」の聖域だった

【知られざるいい店のすゝめ】あの口コミサイトに載っていない店。地元民しか知らない店。裏通りや駅から少し遠くにある店……。街にはまだまだ知られざる店がある!街と店と絡み合ってきた人生の中で食の賢人・松浦達也が辿り着いた珠玉の一軒を紹介する。

2016年06月08日
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高田馬場のとっておき酒場は、あのサイトにも載っていない「もつ煮込み」の聖域だった
Summary
1.呑んべえが信頼を寄せる飲み物ラインナップ
2.あの歌の「浅草のくじら屋」オマージュ煮込みが原点
3.もつ煮込み、もつカレーともに複数のバリエーション

「いい店」の定義はさまざまだ。人それぞれ定義は違うだろうし、気分によっても違う。去年、『dancyu』の25周年記念号「いい店って、なんだ」特集で書き手に加えていただいた。そのときは、鹿浜の『スタミナ苑』を挙げた。行列が苦手な僕が並ぶことさえ楽しめる「いい店」だ。

一方、今日紹介するのは近場の「いい店」だ。駅から徒歩1~2分の雑居ビルの地下。そこに飲食店街があることすらほとんど知られていない、文字通りの穴場中の穴場と言っていいと思う。口コミサイトに登録もされていない。
僕は仕事を遅く終えた00時頃、一杯呑みたくなった時にふらりと立ち寄る。閉店は深夜2時と高田馬場の個人店としてはかなりの夜更かしである。

↑店はこの奥のほうにある雑居ビルのB1F奥

↑地下に降りた奥の方にこの引き戸がある

決して古い店ではない。開店したのは2015年4月。にもかかわらず、この店には昔ながらの「酒場感」が強烈に漂う。つまみも酒も、とにかくメニュー構成がことごとく「酒場好き」のそれなのだ。もちろん「禁煙」などという無粋な張り紙もない。

アテは、牛もつ煮込みから、焼きとん、焼きとりなどの定番メニューから焼きめし、焼きそばなど、大衆居酒屋のド定番「焼き」シリーズが勢ぞろい。飲み物も王道で攻めてくる。瓶ビールは"赤星"の異名で知られるサッポロラガーで、生ビールはサッポロ黒ラベル。ホッピーやハイサワーなどで割る焼酎はもちろんキンミヤだ。いずれも大衆酒場好きの呑んべえが喉を鳴らすセレクトである。

例えば、最近の僕だと、こんな注文からスタートする。

安心・安定のサッポロラガービールと牛もつ煮込み豆腐。夏だか冬だかわからない組み合わせだが、季節感を気にせず、好きに注文ができるのも大衆居酒屋のいいところ。夏でも冬でもカレーを食べるじゃないか。この牛もつ煮込み豆腐だって、卓上の一味唐辛子をかければカレーのようなものだ。

この店の煮込みは、煮詰まりすぎていないのがいい。醤油にザラメという構成の、少し甘めのつゆで煮込まれているが、早い時間ならたいてい若々しい噛みごたえにありつけるし、深い時間でも牛もつの味がしっかり残っている。聞けば牛もつの仕入れや仕込みは、ほぼ毎日。煮ダレは前日の分を継ぎ足しながら育てている。

実はこの煮込みには物語がある。開業前、店主は時間さえあれば、都内・近郊の煮込みの名物店を食べ歩いていた。あとから振り返ると、その数は5年で約500軒にも上ったという。そして、一軒の店の煮込みに衝撃を受ける。浅草にある『捕鯨船』の「牛にこみ」だ。ちなみに『捕鯨船』はビートたけしの名曲「浅草キッド」の歌詞に登場する「仲見世の煮込みしかないくじら屋」のモチーフでもある。さらにちなみに、僕の好きなカヴァーは、竹原ピストルのVer.だという完全なる余談も添えつつ、別アングルの一枚で(勝手に)一休みさせていただく。

↑「一味振った写真もあとで撮りましょう」と言っておきながら、酔って撮り忘れる。

話を戻そう。浅草『捕鯨船』の牛にこみに衝撃を受けた店主は、その味を真似るところからスタートした。作った品を煮込み好きに食べさせると「これ、『捕鯨船』じゃん!」と喜ばれるほどの完コピっぷりだったというから恐れ入る。だが、ホメられるほどにオリジナルではないことが、心にのしかかる。開店から3か月ほど経ったある日、「これ、人のモンを勝手にやってるだけじゃねえか」と仕込んだ煮込みをすべてトイレに流してしまう。

もつの部位、下ごしらえ、煮込み時間、すべての工程を見直し、煮込みを再構築した。現在使っている部位はギアラとテッポウ。うまみが抜けないよう、その日の状態に合わせて、洗い、茹でこぼし、アク取りなどの加減を調整している。ちなみに上記の画像はあくまで、牛もつ煮込み豆腐。通常の牛もつ煮込みに豆腐は入っていない。この店の煮込み系メニューにはバリエーションがある。例えばこんな仕立てだ。

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