「ちらし寿司」「ハマグリ」「ひし餅」・・・、「ひな祭り」に食べるべき行事食の由来とルーツ

日本古来の伝統食は、日本の気候や風土、歴史によって長年育まれてきた大切な食文化です。中でも、暮らしの節目節目にくり返される「行事食」には、日本人のスピリットが凝縮されています。本連載は、日本の伝統食、行事食にスポットを当て、知っておきたい基本知識について、日本料理研究家の柳原尚之さんにお話しいただき、さらに覚えておけば日々の食ライフがランクアップする、日本料理の基本レシピも随時紹介!

2018年03月01日
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「ちらし寿司」「ハマグリ」「ひし餅」・・・、「ひな祭り」に食べるべき行事食の由来とルーツ
Summary
1.ひな祭り(桃の節句)の由来と歴史は? なぜ女の子のお祭りなのか?
2.ひな祭りの時に食べる食べ物って何? その種類やルーツについて
3.桃の節句に食べたい! 近茶流「ちらし寿司」のおいしい作り方をこっそり教えます

連載5回:ひな祭り(桃の節句)の行事食ついて【日本料理研究家/近茶流嗣家・柳原尚之】

春の訪れを告げ、女の子の健やかな成長を願う3月3日の行事「ひな祭り」。「桃の節供」とも呼ばれるこの節供には、どういう由来があり、どんな歴史や意味が秘められているのだろうか。また「ひな祭り」に食べられてきた行事食とは?

連載5回目の今回も、NHK『きょうの料理』講師でおなじみの「江戸懐石近茶流嗣家(きんさりゅうしか)」・柳原尚之さんにご登場していただき、「桃の節句」の歴史や行事食について解説していただく。

ひなまつり(桃の節供)とは? 由来や発祥について

ひな祭りは元々は「上巳(じょうみ)の節供」と呼ばれていました。五節供(人日、上巳、端午、七夕、重陽)と呼ばれる5つの節供のひとつで、陽数(中国では奇数のことを言う)が重なる日は忌み日とされ、平安時代くらいから邪気を祓う祭りの日として、公家から武家、町人へと広がりました。

中国・秦の時代、上巳の日に、身を清めるために川に入り穢(けが)れを落とすという故事があり、平安時代に日本に伝わりました。その後、災いを川に流すという意味で、人形を川に流す「流し雛(びな)」へと変化しました。それが江戸時代になり、人形自体も華やかになって、流さずにめでるようになったのです。さらに、雛人形のお祭りということで女の子の祭りとなりました。

上巳の節供は旧暦の3月3日頃に、ちょうど桃が咲いている時期ですから、桃の節供とも呼ばれています。中国で昔から桃木には邪気を払う力があるといわれています。

「桃の節供」の食べ物には、“子孫繁栄”の願いが込められている!?

では、上巳の節供の行事食はどのようなものがあるかご存知でしょうか? 代表的なものは「菱餅(ひしもち)」です。

菱餅は下が緑で中が白、上が赤(ピンク色)という順番で重なっています。下から緑、白、赤ですね。この色については、春の息吹を表しており、下から草が生え、上には花が咲くという色を意味し、それが豊穣につながり、願いごとが成就するというところにつながっています。

なお、菱餅の元々の原型というのは、天皇家で今も行われている「歯固めの儀」に出てくる「菱葩餅(ひしはなびらもち)」と言われています。

これは正月に食べる菓子花びら餅の原型で、まるくうすいお餅にピンク色の四角いお餅をのせ、そこにごぼうを置いて巻いたもの。

白いお餅に赤いお餅、それを重ね合わせてその中にごぼうを入れるというのは、男女の交わりを意味しており、それをお餅で包むことによって子供が生まれるという、ちょっと艶のある話につながり、「子孫繁栄」の願いとなったわけですね。ひな祭りの菱餅も同じ願いが込められています。

もうひとつ、桃の節供の行事食として挙げられるのが「白酒」です。奈良・春日大社の春の神事では御神酒(おみき)として、白酒(しろき)と黒酒(くろき)を供えます。

白酒というのはにごり酒で、今でいうみりんの中にうるち米などを入れて白濁させたお酒。黒酒というのは久佐木という植物を焼いた灰を白酒に入れた、保存がきく灰色のお酒です。この神事に供えられたお酒が白酒のルーツとされています。子供たちが飲む場合は、米と麹で作った甘酒をすり、白酒にします。

「ひな祭り」に食べる料理の歴史と由来は?

五節供は江戸にいる大名たちが江戸城へ総登城し、お互いが顔を合わせ挨拶する日でもありました。その風習を町人も行うようになり、節供には親戚や隣近所、習い事のお師匠さん、お得意様に挨拶することが広がりました。その時に持って行くものは「白酒」、「ハマグリ」や「サザエ」、「炒り豆」、重箱詰めの料理だったそうです。

また春は水がぬるみ、貝類の旬とも重なります。二枚貝は一度閉まったら開かないことから、貞操の象徴でもあります。

また、ハマグリの貝のちょうつがいには深い溝が刻まれ、上下の貝がしっかり合い、ほかの貝では合わないことから夫婦和合の縁起もあり、昔の貴族の嫁入り道具に「貝合わせ」を持っていったことから、女の子の日でもある「ひな祭り」にハマグリのお吸い物を食べる風習へとつながります。

また江戸の湊では、多くの貝がとれ、江戸の庶民も潮干狩りと楽しみました。ハマグリ以外にも、アサリ、アオヤギ、シオフキ、赤貝など種類も豊富で、江戸料理には多くの貝が登場します。今でも深川めしなどは代表的な江戸料理になります。

ひな祭りといえば「ちらし寿司」! 近茶流「追い込みちらし」の作り方をおしえます

ひな祭りの料理としてよく食べられるのが「ちらし寿司」です。日本全国で、祭りの時にちらし寿司、五目寿司が食べられています。一度にたくさん作ることができ、“人寄せの料理”として作られました。

桃の節供にちらし寿司を食べる由来は、見た目が華やかで、縁起の良い意味の食材を多く使っているので、ひな祭りに食べるようになったのでしょうね。

ちなみに、おいしく作るコツは、具は何でも入れればいいというものではなく、味のバランスが大切です。ポイントとしては、味つけの濃い、甘辛いものを入れると味にメリハリがつき、おいしくなります。また酸味のあるものを加えるとアクセントになりますね。海老やかまぼこを入れて、錦糸玉子をたっぷりのせると見た目が華やかになります。

では、一つの鍋で色々な食材を順々に味を変えながら煮る“追い込み煮”の手法を使った、おいしく作れる近茶流の「追い込みちらし寿司」(写真上)の作り方をこっそり教えましょう。

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